小さな町の真ん中に小山の森があり、登り切ったところに墓地がある。
 ヒロムがこの春から通い始めた小学校はその森のふもとにあった。ヒロムの家は小学校から二キロも離れており、大人の足でも三十分はかかる道のりだ。
 通い始めて一月も経たぬうち、ヒロムは近道をして帰るようになった。それは、同じ団地に住む三年生のトシヤンに教えてもらった近道だ。ヒロムは大柄なトシヤンの子分のようになって、同級生のナオボウと三人でいつも下校するようになっていた。

 近道とは、途中から正式な下校路とは反対の方に進み、まず、家と家の狭い間を体を横にしてカニのようにすり抜ける。すると、見知らぬ家の庭に出る。一軒目は芝生の庭で、いつも忙しそうに洗濯物を取り込むおばさんに出会す。おばさんは一見相撲取りのようで、最近太ってきたヒロムのお母さんよりも確実にでかかった。おばさんは子供好きなのかいつも笑顔で話しかけてくる。

 塀の隙間から隣の庭に出ると、二軒目は足下まで草の生えた古くさい家だ。いつも三人が通るところだけ草がしなっていて、進んでいくと庭の隅に空色の風呂釜が置かれている。三人はいつも決まったように風呂釜を覗き込むのだが、枯れ葉が浮いているだけだ。夏になると蛙のすみかになるとトシヤンが言うので、ヒロムは夏が待ち遠しかった。
 風呂釜の横には、土の入った発泡スチロールがいくつか並んでいたが、生えているのは雑草だけだ。見上げると錆びた瓦屋根にまで草が生えている。
 トシヤンはこの家を「草屋敷」と呼んでいた。ヒロムは誰も住んでいない空き家だと思っていたが、トシヤンの話では、去年までは白髪のおばあさんがいつも縁側に座っていた、とのことだった。

 草屋敷を過ぎると空き地になっているが、空き地には入らず、周囲に張られたフェンスの外にある側溝の上を歩く。側溝の上は幅二十センチ程しか無い。普段はほとんど水は流れていないが、雨で水量が増すとヒロムのヘソぐらいまでの深さとなり流れも強くなる。
 それがまた三人にスリルを与え、ここが一番ハラハラする場所だった。
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