三人は市場の道にトボトボと入った。
 先頭でトシヤンが無言のまま歩く。
 少し離れて紙箱を抱いたヒロムが続き、両手で便箋を広げたナオボウが続いた。
 いつもと違う様子の三人を市場の面々が不思議そうに見る。

「ぼくらあ今日は寄っていかんのか」
 魚屋のおじさんだ。
「今日はちょっとやらなあかんことがあるから」
 とトシヤンが急停止すると、後の二人が衝突した

 危うく紙箱を落としそうになったヒロムが体勢を立て直す。
 衝突の拍子にヒロムの黄色い帽子のつばが下を向いて顔を覆った。魚屋のおじさんが駆け寄って帽子を直しながら、首を傾げて紙箱に目を落とす。

「この箱何の箱よ?」
「おじさんには関係ない話や」
 トシヤンがさりげなく答える。

「こ、こりゃまた、失礼いたしました」
 おじさんは目を丸くすると、大げさな動作で気をつけの姿勢をして最敬礼した。

「また、明日遊んだるから」
 とヒロムが見上げると、近くにいたおばさんらが吹き出した。
 おじさんは、頭を掻きながら苦笑でまた店の中に戻っていった。

 三人はまた順番に並ぶとトボトボと歩き始めた。
 市場を抜けた四つ角で一番後ろのナオボウが、こっち! と声を上げた。
 振り返ると左手で指をさしている。

「おまえなあこっちやったら左と言え、反対のこっちは右やわかったな」
 トシヤンがナオボウの腕を交互に掴みながら教える。
 ナオボウは黙って口をとがらせた。
 三人はナオボウの言うとおりに歩いて森に入る道の前まで来た

南寧魚市場(20)