入り口で三人は立ち止まると山頂へと続く道を眺めた
 道は意外に広く車が一台通れるほどだった。
 踏切の遮断機に似たゲートが直立して開いている。

 三人はゆっくりと足を踏み入れた。
 ザッザッと足下に積もった落ち葉が鳴る。
 舗装はされておらず、湿った土の上に枯れ葉が敷き詰められていた。
 道の両側は草や木が生い茂っている。
 今までの道とは全く違う雰囲気で、ヒロムは緊張した。

 と突然、ガササーッと頭上から何かが落ちてきた。
 ぎゃーッとトシヤンが悲鳴を上げて後ずさりする。
 その勢いで後の二人に当たり三人とも尻餅をついた。
 ヒロムは何とかぼた餅の箱を両腕に抱えていた。

 見ると道の真ん中に大きなサルが座っている。
 サルは全身柔らかい毛に覆われ、その毛がタンポポの綿毛のように風に揺れていた。

「おっ脅かしやがるなサル、あっちに行け!」

 トシヤンがズボンの土を払いながら立ち上がる。
 サルは掌を上にして差し出している。食べ物をおねだりしているようだ。
 よく見ると小ザルがお腹にうずくまっていた。
 小ザルも同じように小さな手を差し出す。
 かわいいなあとナオボウが言う。
 親子ザルは、ぼた餅に目を付けたのか紙箱をじっと見ている。
 ヒロムはサルたちの顔が哀れに見えてきて、自分の持っている紙箱を少しだけ前に出した。

「なあぼた餅ひとつだけあげようか」

 ヒロムはトシヤンに言った。

「あかんあかん、おじいさんのぼた餅や。いくらサルが腹減っててもこれだけはあげられんわ」

 ヒロムは、トシヤンがいなければサルのおねだりに負けて、一つか二つぼた餅を上げているところだった。

 トシヤンの言うとおり、ぼた餅はおじいさんのための大切なぼた餅なのだ。
 ヒロムは、おじいさんがいただくまでは誰にもあげてはいけないのだと思い直し、また紙箱を強く抱くように持ち直した。

 ナオボウがランドセルを降ろして中を探る。
 取り出したナオボウの手には真っ赤なニンジンが握られていた。

「おまえなんでニンジンがランドセルの中に入れとんのや」
 とトシヤンが笑う。

「学校のウサギにやろうと思って今日持ってきてたんやけどやるの忘れてたんや」

 ナオボウはサルに近づくと、ニンジンを投げて戻ってきた
c547b44e01c60a1ff182affa19c31eab-529x640