「その箱なんだよ」

 二人組はヒロムが大事そうに持つ紙箱に目を付けた。

「なんでも~ないです~」

 トシヤンがか細く言う。

 二人組はお構いなしにヒロムに近寄って紙箱を取ろうとした。

 こいつらには絶対に渡せないっ。
 おじいさんに食べさせる大事なぼた餅をこんな二人に食べられてたまるか。
 とヒロムは紙箱に覆い被さった。

 相手は力の強い四年生。ヒロムは羽交い締めにされると、あっさりと紙箱を取り上げられた。

「あかん、その箱あかん!」

 ヒロムは両腕を振り回して二人組に突進した。

 四年の1人が笑いながら紙箱をヒロムの手の届かない頭上に掲げる。
 もう1人の四年の長い足がヒロムの横腹にサーッと伸びた。
 小さなヒロムは簡単に側溝のところまで蹴り飛ばされた。

 ヒロムは泣き顔でトシヤンに助けを求めたが、トシヤンは黙って突っ立ったままだ。
 ナオボウも顔をこわばらせている。
 ヒロムは、住宅街のみんなに聞こえるように大声で泣いた。が、誰も助けに現れない。

 二人組はお構いなしに紙箱を開けた。

「おっ、ぼた餅や。うまそうやなあ」

 そう言って二人組は笑顔でお互いの顔を見合った。

「よっしゃいただくか」

 言うが早いか、二人組はぼた餅をつまみ上げ、あんぐりっとかぶりついた。

 ヒロムの泣きが悲鳴に変わる。

「そ、それ~おじいさんのぼた餅やから食べたらいかん~」

 トシヤンの震えた声が届いた。

 二人組はぼた餅を頬張りながら、なんやとこいつぅ、と言ってトシヤンに詰め寄った。

 ヒロムの涙眼に足下の小石が映る。
 ヒロムは泣きながら小石を拾うと、素早く紙箱に駆け寄った。
 ぼた餅に小石をあてがうと、親指で突いて小石をぼた餅の中にめり込ませた。

 二人組は、簡単にトシヤンを突き飛ばすとまたぼた餅の方に戻って来た。
 ヒロムは急いでトシヤンの方に向かった。

 その時、目の前を猛然と黒い影が駆け抜けた。
 同時に四年の二人組のけたたましい悲鳴が上がった
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