だが、ヒロムの足取りは重たい。
 
 後ろのナオボウを見ると口を歪めて今にも泣きそうな顔だ。
「なあ幽霊ってほんまにおるんかなあ」

 ヒロムは前を歩くトシヤンに恐る恐る訊いてみた。

「六年が言うからにはほんまにおるんやろ」

「ぼく怖いわ」

 ヒロムは立ち止まった。

 ナオボウが横に並んで頷く。

「でも、おばあさんと約束したやろ」

「ヤクソクって?」

 ヒロムはトシヤンの言う約束という言葉がわからなかった。

 トシヤンは直ぐに返答せず少し考えてから口を開いた。

「ぼた餅を持って行くことを約束って言うんやんか」

 ヒロムはふーんと頷ずいた。

 確かにトシヤンの言うとおりだ。

 ぼた餅は戻すことも、捨てることも出来ない。

「サルに取られたことにしようか」

 ナオボウがポツリと言った。

「そんな卑怯なことできるか」

 トシヤンは立ち止まって振り返ると声を上げた。

 ナオボウがしょぼくれてハイと返事する。

「ヒキョウってえ?」

 ヒロムの初めて耳にする言葉だった。

「卑怯ってのはな、う~んとな、ずるいってことだよ」

 勇ましく言うトシヤンがかっこよく見えた。

「ええか、さっきの六年が教えてくれたやろ。おちんちんついてない言って三回言うたら大丈夫やって」

 なぜかトシヤンの顔は赤くなっている。

「とにかく出たらオレがやっつけてやる」

 トシヤンは道脇を見渡すと棒切れを拾い上げた。
 棒切れを奇声と共に草に打ち付ける。
 草がちぎれて風に舞った。
 トシヤンは調子に乗って、そこいらの草という草に棒切れを打ち続ける。
 蹴りとパンチも出して、ありったけの技を披露した。

 ヒロムはトシヤンの力強い動きに、ひょっとしたら幽霊に勝てるのではないのかと思い始めた。

 悦に入ったトシヤンは、ゴージャスキィック! と一際大きな声を上げて飛び上がった。
 が、落ち葉の上に着地した足が滑って、両またを開いたまま崩れ落ちた。

 トシヤンが眉をつり上げヒェッと短い悲鳴を上げる
 トシヤンの異様な格好にヒロムとナオボウは吹き出した
 トシヤンは口を歪めて起き上がると、いくぞっと小さく言って背中を向けた。

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