おじいさんのお墓の前まで来た。
 おじいさんの墓石は磨かれているように綺麗だ。

 トシヤンは、ヒロムから紙箱を取り上げると蓋を取ってお墓にお供えした。
 トシヤンが両手を合わせると、ヒロムとナオボウも真似るように手を合わせる。

 おいっ、と言ってトシヤンは早足で墓地の入り口と違う方向に進んだ。
 ブロック塀をまたぐとランドセルを脱いで身を隠すように伏せた。
 ヒロムもナオボウも同じように伏せる。泥臭い土の匂いが鼻に入った。

 三人の眼がぼた餅の箱に集中する。
 いつ、おじいさんが出るのか、ヒロムの心臓は割れんばかりに高鳴った。

 すると、一羽のカラスがおじいさんの墓石の上に舞い降りた。

 カラスはぼた餅を狙って墓石の上を跳ねている。
 あのクソガラス、と言ってトシヤンが足下から拾った石を投げつけた。
 カラスは身をひるがえして石をかわすとまた、墓石の上に乗った。
 トシヤンが石をつかんで立ち上がる。

 総攻撃やあ! 
 トシヤンの大声と共にヒロムらも石を投げつけた。
 墓石に当たった石がカンカラッと跳ね返る。
 三人の手からいくつもの石が投げ放たれると、さすがのカラスも遠くに飛んでいってしまった。

 三人はまた腹ばいに寝そべってぼた餅を見守った。
 何の変化もなく時間だけが過ぎる。

 背後でカラスの鳴き声が聞こえた。
 三人はその声に振り返った。
 まだあそこにおるわ、とトシヤンが小声で寝そべったままで指をさす。
 原っぱの向こうの一本松にカラスがとまってこっちを見ていた。

 ガサガサと入り口と反対側の方で音がした。
 三人に緊張が走る。
 音のした方を見ると、おじいさんのような姿がいきなり目に入った。

 でっ出たァ~、トシヤンが声を潜めて地面に突っ伏した。
 ヒロムも息を殺して地べたに伏せた。三人とも押し黙った。
 ヒロムは気付かれないよう息を小さくきざんだ。
 体のくっついたトシヤンもヒロボウも小刻みに震えている。

 ヒロムの頭の中で歯がかたかたと鳴った。
 なぜか体が異常に熱い。
 おじいさんは今ぼた餅に近づいているはずだ。

 「あたーっ!」

 突然おじいさんの悲鳴が響いた。

 ヒロムは心臓が飛び出るほど驚いて頭を両手で覆った

 他の二人もヒロムに身をくっつけて震えている

 怖さ絶頂の中、ヒロムに好奇心が沸き起こった。
 なんでおじいさん悲鳴あげたんやろ。
 ヒロムは恐る恐るブロック塀から眼だけ出して顔を上げた。

 おじいさんが口のところを押さえながら早足で去っていく姿が見えた。
 そして不思議なことに、幽霊のはずのおじいさんは肩にクワを担いでいた

 ヒロムはまた怖さに押しつけられるように身を伏せた。
 三人は暫く起き上がれなかった。

 緊張のあまりどれほど時間が経ったのかもわからなかった。
 カラスの鳴き声が近づいてきた。

 トシヤンがゆっくりと身を起こした。

 おい、もう大丈夫や、そう言ってトシヤンが立ち上がった。

 三人は辺りをうかがいながらぼた餅にゆっくりと近づいた。

 箱の中を見るとぼた餅は三つしかなかった。

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