翌日、僕はつくったホームページを見せるためにヘンリーを訪れた。アメーバーブログなのだが、十分に質は高い。カウンターに置いたノートパソコンに順子さんとヤスコさんが食い入る。石川先生はカウンターの隅で、一人カラコロと水割りのグラスを傾けていた。
「名前は、ガバチャというニックネームで呼んでください。糖尿病で毎日グァバ茶を飲んでたら、みんなからガバチャと呼ばれるようになりましたので」
「す、すごいわーこれ。ほんまにただでよろしいの。お金払うわ」
順子さんが声を上げる。「こんなん、ただですぐにできるんですよ。お金もらうほどのもんじゃないですよ」
僕はマウスをクリックしながら、ユーチューブの操作をした。「いいですか、ここに動画を作成することができます。順子さんが歌うところをデジカメで撮ってアップロードすれば全世界の人に見てもらえますよ」
順子さんとヤスコさんは口を丸く開けたまま、僕の顔をのぞき込んだ。「もうあのホームページ止めときなあって」
石川先生が口を挟むと、順子さんは首を何度も縦に振った。「今日はデジカメ持ってきてるので後で歌うところ撮ってブログに載せてあげますわ。そうですね、ブログのタイトルは歌うヘンリーのじゅんちゃんでどうですか」
順子さんは子供がはしゃぐように小躍りした。
ヤスコさんが微笑んで順子さんを見上げる。客が入ってきて店が賑やかになると、僕はデジカメで写真や動画を何枚も撮った。
その後もホームページの代金請求のメールはしつこく届いた。順子さんが僕との顛末を書いて返信すると、やがてメールは収まった。やましい請求だったのだろう。ホームページは消された。
順子さんは、「もうガバチャさんのブログがあるからあんなのいらないわよ」と相好を崩した。
僕はガバチャさんと呼ばれるようになっていた。
店のメンバーに素性は明かしていない。駅前の会社勤めでこの近所に社宅がある、との情報しか伝えてない。
「名前は、ガバチャというニックネームで呼んでください。糖尿病で毎日グァバ茶を飲んでたら、みんなからガバチャと呼ばれるようになりましたので」
順子さんはパチンと両手をたたいて、合ってる合ってるイメージとぴったり、と目を細めた。
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