「ここから、僕と石川先生は気づかれないよう離れて歩きましょう。うろこの館はそのバス停を左に上がったところです。少し坂がきついですがすぐですよ」

 僕が言い終わるが早いか、順子さんは腕時計に目を落として歩き始めた。


 石川先生はいつの間にかサングラスをかけている。

 炸裂した太陽の周りに雲はない。

 青一色の空が抜けているだけだ。


 うろこの館は異人館巡りの中で一番人気だ。

 サターンの椅子というのがあって、それに座って願い事を唱えればかなうらしい。

 僕も座ったが、宝くじのひとつも当たらなかった。


 うろこの館に続く細い坂道にさしかかる。

 観光客の往来の中に順子さんの後ろ姿が見え隠れした。


 石川先生は僕の後ろについている。

 前傾で腰を折って上っていた順子さんの背筋がぴんと伸びた。


 うろこの館の玄関に到着したようだ。

 左右に首を振ってピアノマンを探している。


 と、順子さんの動作が一点の方向を向いて止まった。

 ピアノマンを発見したのだろうか。


 僕は石川先生に振り返って表情で合図をした。

a6c082547e2db5b2ae816942db8a5dff