察知した石川先生が動く。

 僕は人混みに紛れ、早足で順子さんを追い越すと木陰に立って見下ろした。


 石川先生は順子さんを追い越さず、坂の下で塀にもたれかかった。

 立ち尽くす順子さんの視線の先を探す。


 うろこの館と反対方向に伸びる小道は、僕の位置からは民家の屋根に遮られ一番奥までは見えない。

 ただ、順子さんの釘付けになった様子は何かをとらえているはずだ。


 僕は再び順子さんに向かって下ることにした。

 小道の奥が徐々に開ける。


 完全に小道の奥を捕らえた時、足が止まりそうになった。


 そこには、車いすの老人と傍らにうら若い青年が立っていた。

 僕は慌てて石川先生に駆け寄った。


「ピアノマンおったか」

 石川先生が低い声で訊く。


「車いすの方でした」

 石川先生はポカンと口を開けた。


「車いす、ね。なるほど」

 石川先生は雲ひとつない天を仰いだ。

02301_1900685_01