「ピアノマンさん、息子さんと二人暮らしなんやて。さ、入って」

 門をくぐると、二階のバルコニーから老人の声がした。


「ようこそいらっしゃいました。さぁ、上がってください」

 僕と石川先生は頭を下げながら、家の中に入っていった。


 洋風な作りで靴のまま広い階段を上る。

 壁には古ぼけた絵画がいくつも掛かっており、どれも港の風景だった。


 二階が大広間のリビングになっていて、アンティークな応接セットが真ん中に置かれていた。

 バルコニーに出ると心地良い風に吹き付けられた。


「うわー、すごいなー」

 石川先生が思わず声を上げた。眼下に神戸の港が映る。


 幾何学的な埋めたて地に突き立った高層ビルの群れ、巨大ロボットのようなコンテナを荷揚げするガントリークレーン、その合間を白いボートが白線を引いてまっすぐに走る。


「ここからは私のふるさとの和歌山が見えるんですよ」

 ピアノマンが口を開いた。


 よく見ると霞んだ水平線の左手に陸地のような黒い塊が乗っかっている。

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