「あの左手の陸地ですね」

 と石川先生が指を差す。


「ええ、あれが大阪府と和歌山県の県境の和泉山地です。私の生まれたところはそこからまだ遙か遠い、那智勝浦町というところです」

「へー、行ったことないけど良いところなんでしょう」

 順子さんの言葉にピアノマンが目を細めた。


 いつの間にか青年がコーヒーとショートケーキを運んできた。


「さ、まぁお座りください。何もございませんが」

 と、うながす車いすのピアノマンを青年がゆっくりと押す。

 僕らはピアノマンを囲むように応接セットに対座した。


「私もこの年になってパソコンとかを見るようになりましてね、じゅんちゃんに会えてほんとうに嬉しい限りです。なにもかもこの子のおかげですわ」

 ピアノマンは相好を崩した。


 ac15ea5e3bcc2c719f84dab49f0807cba3d57ab6_92_2_2_2