画面が明るくなって床らしきものが映る。
この家のどこかの部屋のような感じだ。
アングルが変わってグランドピアノに女性が向かっている映像が映った。
ピアノに向かっている髪の長い小柄な女性がこちらを向いて笑顔でピースサインをする。
黄色のTシャツにジーパン姿。
細面の端整な顔立ちだ。
小さな男の子の声が近づいたり離れたりしている。
何を言っているのかはわからないが、もういい、もういいと言っているようにも聞こえる。
女性はやおら弾き語りを始めた。
アメイジング・グレイスだ。
小柄なのに声量がある。
伸びのある透き通った声が響く。
僕は息をのんで見入った。
石川先生は食い入るように首を突き出している。
順子さんは口パクでリズムをとっていた。
一番が終わって間奏に入ったところで、男の子が現れ「ママ、ママ」と言って太ももの辺りにしがみついた。
女性は演奏をやめ「マー君、ママいいとこなのにー」と抱き上げてほっぺたをすり寄せた。
そこで映像は中断され今度は運動会の場面になった。
「止めていただけますか」
ピアノマンが静かに言った。
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