「奥さん、おきれいな方ですね。声もすごく透き通っていて素敵です」

 順子さんの目頭が光る。


「いやいや、順子さんに言われると家内も恐縮しますよ」

 ピアノマンは口元を緩ませた。


「あの、わたし思ったんですけど、奥さん、似てますね。若い頃の順子さんに」

 石川先生に向かって順子さんがはっとした顔を上げた。


 石川先生は若い頃から順子さんのことを知っている。

 ピアノマンの奥さんを四十代の頃の順子さんと重ね合わせたのだろう。

 僕は順子さんの顔をまじまじと見た。


「容姿も歌い方も声色もね。ビブラートを効かせるときに少し斜め上を向くところなんかは瓜二つですよ」

「私も雅也にブログの映像を見せてもらったときには驚きました」

 ピアノマンの言葉に汽笛が重なる。

 

 遮られたように会話が途切れた。

 汽笛は腹に響くようにボーっと三回鳴った。

 順子さんが立ち上がって船を探す。


 白い大きな船が僕の目にも入った。

「どこかの豪華客船でしょう」

 ピアノマンは振り返りもせずにつぶやいた。


 ベランダに出た順子さんの短い髪がぱさぱさと風に舞う。

 石川先生は興味が無いのか、座ったまま腕組みをして何かを考えている様子だ。


「風が出てきましたわね」

 順子さんが両手で身を覆うようにして戻ってきた。

 雅也君がいつの間にかいなくなっていた。

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