気がついたのか、一階から雅也君が上がってきた。
ピアノマンの肩に手を置くと介抱するようにさすった。
ピアノマンが目を腫らしたまま口元で笑顔をつくる。
「順子さん、お願いします。私にアメイジング・グレイスを歌ってください」
ピアノマンの問いに、順子さんはハンカチで鼻を押さえたまま黙って何度も頷いた。
目は真っ赤だ。
僕らは一階のある部屋に案内された。
そこには立派なグランドピアノが置かれていた。
さっき見た映像の部屋だ。
「雅也が毎日手入れしてるのでピカピカです」
ピアノマンが言い終わるが早いか、石川先生がピアノに向かう。
確かめるように鍵盤を弾くと、おーっと眉をつり上げた。
「これは良い。最高やっ」
石川先生の大きな声と同時に、雅也君が扉を閉めた。
「この部屋は防音になってますので少々大きな音を立てても大丈夫です」
ピアノマンが順子さんに目配せした。
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