「さあ、天気も良くなったしいまからやで」
 と木村は針にエサをつけ始めた。
 丁寧につけているなと思って見てみると、オキアミを三つほど針にぶら下げていた。

「ひとつやから食いに来んのや。沢山つけたら海中で目立つから魚も気になって寄ってくるで」
 妙に説得力のある木村の言葉に律子も真似てみた。

 午前中と潮の流れが変わったのか玉ウキは沖の方には流れない。
 足下の岸壁の際にくっついたままだ。

 沖から岸壁に向かって潮が流れているのだろう。
 一時間ほど粘ってみたが当たりはなかった。

「えーい、昨日の海といっしょや」
 木村がやけになって竿を振る。

「昨日の海って?」
「海物語よぉ」
 パチンコの海物語という機種のことだった。
 鮫やカニ、タコなどの絵柄が三つ揃ったら五千円分の玉が出てくる。
 律子もお気に入りの機種だ。

「あんた確か昨日は久しぶりに洗濯するって寮に居たんじゃないの」
「手がうずいてな。結局七時頃から行って一回もそろわんかったんや。オレは海は嫌いやっ」
 ふてくされる木村に律子はあきれ顔を返した。
 木村は律子に目も合わせず海面をにらんでいた。

「どうですか?」
 突然の声に二人とも驚いた。
 振り返るとあの老人が立っていた。

 三時のじいさん、律子はそう思って老人を見た。