上背はそれほど無いが小太りしていた。
 つばのある帽子から無造作に伸びた白髪が飛び出している。

 肩に釣り竿用のバッグを掛け小さなカートを後ろ手に引いていた。
 どこか品のある風貌だ。

「全然だめです」
 律子が言うと合わせるように木村も首を振った。

「今日は釣れないでしょう」
 老人は何か根拠でも持っているように言った。

「混ざっとんので来てみたんやけどなあ」
 木村は知った風に言った。
 老人はふっと口元を緩めた。

 律子は見透かされたような気がした。
 同時に、木村もこんな老人に対してまで見栄を張らなくても良いのにと、少し腹立たしくも思った。

 老人は海に眼をやった。
 何の意味かは分からないが少し頭を垂れて何か言うように口をかすかに動かしている。
 私達を馬鹿にしているような態度ではなく呪文でも唱えているような風だった。

「まあ、海というものはわかりませんからなあ」
 そう言って老人は釣り竿袋を降ろした。

「ほんまにそのとおりです」
 律子は老人の言葉に安堵した。
 老人は腰を下ろして煙草を吸い始めた。

「あなた方は初めて見ますねえ」
「ここ初めてきたんや」
 木村が答えた。

「また何でこんな場所に?」
 本当はあなたのことを思い出してが理由なのだが、律子はどう答えようかと少し考えた。

「たまには近くで釣ろうと思って」
 木村がさりげなく答えた。
 律子は、よく言うよ、としらけて沖の方を向いた。

「そうか、あの自転車できたんですか。近くてええですねえ」

「おじさんはどっからですか?」
 律子が訊いた。