風来の万博小僧

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    2019年03月

     おじいさんのお墓の前まで来た。
     おじいさんの墓石は磨かれているように綺麗だ。

     トシヤンは、ヒロムから紙箱を取り上げると蓋を取ってお墓にお供えした。
     トシヤンが両手を合わせると、ヒロムとナオボウも真似るように手を合わせる。

     おいっ、と言ってトシヤンは早足で墓地の入り口と違う方向に進んだ。
     ブロック塀をまたぐとランドセルを脱いで身を隠すように伏せた。
     ヒロムもナオボウも同じように伏せる。泥臭い土の匂いが鼻に入った。

     三人の眼がぼた餅の箱に集中する。
     いつ、おじいさんが出るのか、ヒロムの心臓は割れんばかりに高鳴った。

     すると、一羽のカラスがおじいさんの墓石の上に舞い降りた。

     カラスはぼた餅を狙って墓石の上を跳ねている。
     あのクソガラス、と言ってトシヤンが足下から拾った石を投げつけた。
     カラスは身をひるがえして石をかわすとまた、墓石の上に乗った。
     トシヤンが石をつかんで立ち上がる。

     総攻撃やあ! 
     トシヤンの大声と共にヒロムらも石を投げつけた。
     墓石に当たった石がカンカラッと跳ね返る。
     三人の手からいくつもの石が投げ放たれると、さすがのカラスも遠くに飛んでいってしまった。

     三人はまた腹ばいに寝そべってぼた餅を見守った。
     何の変化もなく時間だけが過ぎる。

     背後でカラスの鳴き声が聞こえた。
     三人はその声に振り返った。
     まだあそこにおるわ、とトシヤンが小声で寝そべったままで指をさす。
     原っぱの向こうの一本松にカラスがとまってこっちを見ていた。

     ガサガサと入り口と反対側の方で音がした。
     三人に緊張が走る。
     音のした方を見ると、おじいさんのような姿がいきなり目に入った。

     でっ出たァ~、トシヤンが声を潜めて地面に突っ伏した。
     ヒロムも息を殺して地べたに伏せた。三人とも押し黙った。
     ヒロムは気付かれないよう息を小さくきざんだ。
     体のくっついたトシヤンもヒロボウも小刻みに震えている。

     ヒロムの頭の中で歯がかたかたと鳴った。
     なぜか体が異常に熱い。
     おじいさんは今ぼた餅に近づいているはずだ。

     「あたーっ!」

     突然おじいさんの悲鳴が響いた。

     ヒロムは心臓が飛び出るほど驚いて頭を両手で覆った

     他の二人もヒロムに身をくっつけて震えている

     怖さ絶頂の中、ヒロムに好奇心が沸き起こった。
     なんでおじいさん悲鳴あげたんやろ。
     ヒロムは恐る恐るブロック塀から眼だけ出して顔を上げた。

     おじいさんが口のところを押さえながら早足で去っていく姿が見えた。
     そして不思議なことに、幽霊のはずのおじいさんは肩にクワを担いでいた

     ヒロムはまた怖さに押しつけられるように身を伏せた。
     三人は暫く起き上がれなかった。

     緊張のあまりどれほど時間が経ったのかもわからなかった。
     カラスの鳴き声が近づいてきた。

     トシヤンがゆっくりと身を起こした。

     おい、もう大丈夫や、そう言ってトシヤンが立ち上がった。

     三人は辺りをうかがいながらぼた餅にゆっくりと近づいた。

     箱の中を見るとぼた餅は三つしかなかった。

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     山道が急に狭くなった。

     地図を見るとまたナオボウが道を間違えていた。引き返して進むとまた間違えたりして、ヒロムらは山の中腹をグルグル回っているような感じだった。

     さすがに疲れが出た。
     トシヤンが休もうと言って腰を下ろす。汗だくの三人に五月の風が気持ちよく吹きつけた。

     静かな森の中でヒロムのお腹がぐーっと鳴る。

    「ヒロムお腹減ったのかよ」

     トシヤンが訊く。
     ヒロムはうんと頷いた。
     ボクもぺこぺこや、とナオボウも訴える。

     三人の眼が自然とぼた餅の紙箱に向く。トシヤンがごくりとつばを飲み込んだ。

    「なあ、ひとつずつだけもらう?」

     ヒロムが言った。

     トシヤンのダメやと言う声と、ナオボウのそうしようという声が同時に響く。

    「ひとつずつ食べてもあとひとつ残るし」

     ヒロムが言うと、トシヤンが怖い顔で紙箱を取り上げた。

    「ええかお前らこのぼた餅をちゃんと届けないとゴリヤン君はないんやで」

    「ゴ、ゴリヤン君?」

     ヒロムはゴリラの名前かと思った。

    「お前らちゃんと話聞いてないんか。あの時おばあちゃんがお墓にぼた餅届けてくれたらゴリヤン君って言うええことがあるって言ってたやろ」

     ヒロムは何となく思い出した。
     横でナオボウがゴリヤンゴリヤンと言いながら笑う。

    「ええか、このぼた餅はおじいさんのためでもあるしゴリヤン君のためでもある。お墓まで無事届けることがオレらの仕事や」

    「仕事?」

     意外な言葉にヒロムはきょとんとした。

    「そうや、お前らのお父さんも仕事してるやろ。オレらも仕事するんや。おじいさんとゴリヤン君のためにの仕事や。子供でも仕事が出来るってとこ大人に見せたるんや」

     トシヤンは紙箱をヒロムに渡すと立ち上がった。

     ヒロムは仕事という言葉を聞いて、何となくこの仕事をやり終えたら自分が大人みたいになれるような気がした。そしたら、お嫁さんももらわないかんなーとか思い始め、急に同級生のルミのことが頭に浮かんできた。

     この仕事を無事やり遂げたら、ルミが自分のことを好きになって中学生くらいになったら結婚してくれるのかもしれない。と、そこまで考えてはたとナオボウを見た。

     ナオボウは風邪気味なのか鼻を垂れている。

     美人のルミはみんなからもてるのでライバルも多い。ナオボウだってルミのことを好きに違いない。
     が、自分の方がハナタレで弱虫のナオボウよりも数段男前なので、ナオボウには勝てると思った。

     よっしゃあ! ヒロムは声を張り上げて立ち上がった。

     トシヤンが不思議そうな顔で振り返る。三人はまた前進を開始した。

     少し行くと森から抜け出て原っぱのようなところに出た。急に道が平坦になる。遠くに低いブロック塀が見えた。どうやらお墓についたようだ。

     空を見上げるとお日様が低い位置にある。風が強くて少し肌寒くなってきた。三人はお墓の入り口まで到達した。

     目の前にもの凄い数のお墓が広がっている。ヒロムは一目見てブルルと震えた。
     広さは小学校のグランドよりかは狭いが体育館の広さぐらいはある。周囲は低いブロック塀で仕切られていた。

     ヒロムは、家族で何度も田舎のお墓に行ったことはある。田舎のお墓は山の中に三つぐらいの墓石が立っているだけで、家族が一緒なので怖いと思ったことはない。

     だが、今ここには頼るべく家族はいない。トシヤンだけなのだ。

     そのトシヤンは黙りこくって呆然とお墓を眺めている。ヒロムは急に心細くなった。

    「なあやっぱり帰るう?」

     ナオボウがトシヤンの手を引っ張った。

    「バ、バカか、せっかくここまで来たんや」

     トシヤンはナオボウから取り上げた便箋に目を落とすと、一番端やなっと言いながら墓地に進み行った。

     ヒロムらも真っ青になってトシヤンにくっつく。と、途中まで進んだトシヤンが、あかん忘れてたと言って急に方向転換した。

     トシヤンが墓地の入り口に逆走するヒロムらも必死で後を追った

     三人は墓地の外に出るとはいつくばって肩で息をした。

     やっと顔を上げたトシヤンが口を開く。

    「お、おちんちん取られるところやったわ~」

     三人は荒い息のまま顔を見合わせた。

     三人は墓地の入り口に整列した。

    「ぼくらは女の子ですおちんちんはついておりませんっ!」

     三人はお墓に向かうと大声で三回そう言った。

    「よ、よし~。入るぞ~」

     トシヤンが息を飲んでそろりそろりと足を進めた。

     ヒロムはぼた餅の箱を抱くと前屈みになり、辺りをきょろきょろ見回しながら後に続いた
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     だが、ヒロムの足取りは重たい。
     
     後ろのナオボウを見ると口を歪めて今にも泣きそうな顔だ。
    「なあ幽霊ってほんまにおるんかなあ」

     ヒロムは前を歩くトシヤンに恐る恐る訊いてみた。

    「六年が言うからにはほんまにおるんやろ」

    「ぼく怖いわ」

     ヒロムは立ち止まった。

     ナオボウが横に並んで頷く。

    「でも、おばあさんと約束したやろ」

    「ヤクソクって?」

     ヒロムはトシヤンの言う約束という言葉がわからなかった。

     トシヤンは直ぐに返答せず少し考えてから口を開いた。

    「ぼた餅を持って行くことを約束って言うんやんか」

     ヒロムはふーんと頷ずいた。

     確かにトシヤンの言うとおりだ。

     ぼた餅は戻すことも、捨てることも出来ない。

    「サルに取られたことにしようか」

     ナオボウがポツリと言った。

    「そんな卑怯なことできるか」

     トシヤンは立ち止まって振り返ると声を上げた。

     ナオボウがしょぼくれてハイと返事する。

    「ヒキョウってえ?」

     ヒロムの初めて耳にする言葉だった。

    「卑怯ってのはな、う~んとな、ずるいってことだよ」

     勇ましく言うトシヤンがかっこよく見えた。

    「ええか、さっきの六年が教えてくれたやろ。おちんちんついてない言って三回言うたら大丈夫やって」

     なぜかトシヤンの顔は赤くなっている。

    「とにかく出たらオレがやっつけてやる」

     トシヤンは道脇を見渡すと棒切れを拾い上げた。
     棒切れを奇声と共に草に打ち付ける。
     草がちぎれて風に舞った。
     トシヤンは調子に乗って、そこいらの草という草に棒切れを打ち続ける。
     蹴りとパンチも出して、ありったけの技を披露した。

     ヒロムはトシヤンの力強い動きに、ひょっとしたら幽霊に勝てるのではないのかと思い始めた。

     悦に入ったトシヤンは、ゴージャスキィック! と一際大きな声を上げて飛び上がった。
     が、落ち葉の上に着地した足が滑って、両またを開いたまま崩れ落ちた。

     トシヤンが眉をつり上げヒェッと短い悲鳴を上げる
     トシヤンの異様な格好にヒロムとナオボウは吹き出した
     トシヤンは口を歪めて起き上がると、いくぞっと小さく言って背中を向けた。

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    「だからなぼくらあ止めとき」

     背の高い女の子が、笑いすぎて涙を指で拭いながら言った。

    「でもな、ぼくらあおばあちやんに言われてどうしてもお墓に行かなあかんのや」

     ヒロムは泣き声だ。

    「何言われたんや」

     女の子は真顔で訊く。

    「このぼた餅お墓にお供えしてきてって」

     ヒロムは箱をさしだした。

     女の子三人はふーんと言って箱の方を見た。

     女の子の一人が近づいて「ちょっと見せてな」と言って紙箱の蓋を取る。

    「わぁおいしそうなぼた餅やん」

     女の子は、いきなり人差し指であんこをこそぐとペロリと舐めた。
     あまーい、女の子は笑顔で声を上げた。

    「や、やめてや」

     トシヤンが眉をつり上げてぼた餅の箱を取り上げる

    「まあこんなにおいしくつくってあるぼた餅やったら持って行かなああかんなあ」

     あんこを舐めた女の子は、未だ舌を舐めながら蓋をトシヤンに渡した。

     そうやなあと言いながら、一番背の高い女の子が目尻を下げて口を開いた。

    「あんたらどうしても行かなあかんのやったら、おねえちゃんが幽霊の出ん方法教えたるわ」

    「教えて、教えて」

     身を乗り出したトシヤンは未だ股間を押さえている。

    「お墓の入り口のところでな、ぼくらは女の子ですおちんちんはついておりません、と大きな声で三回言うんや」

     それを聞いて他の女の子が苦笑する。

     べっ? とトシヤンは真剣な目つきで口元だけ少し緩めた。

     ヒロムとナオボウは真顔で何度も頷く。

     ええか叫ぶぐらい大きい声やで、と背の高い女の子は言うが、顔は今にも吹き出しそうな表情だ。

    「ほな日の暮れんうちに行ってきなさい」

     女の子達は笑いすぎて出た涙を拭った。

     ヒロムら三人は顔を見合わせると、また道を進み始めた。

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    「あれ、おじいちゃんどこいったんかな」

     と言うと、女の子はまたヒロムらの方を向いた。

    「あんたらどこ行ってるんよ?」

     別の女の子が訊いた。

    「この上のお墓」

     ヒロムが答えた。女の子達は少し驚いた様子で苦笑いをした。

    「何しにお墓なんか行くんよ」

     と女の子のひとり。

    「ちょっと用があるんや」

     トシヤンが答えた。

     すると、一番背の高い女の子が少し前に出て「あんたら止めといたほうがええよ」と、口元は笑っているのに、ぐりッと眼をむいた表情で言った。

    「なんで?」

     トシヤンが訊いた。

    「あそこなあ~出るんやで~」

     女の子は両手を前に出して垂れた。

    「でっ、出るって」

     トシヤンがうろたえる。

    「幽霊に決まってるやんか」

    「でぇっ!」

     トシヤンの張り上げた声にヒロムらも腰を引いた。

     女の子はにたりとすると立てたクワの柄に顎を乗せ、ヒロムらの顔を代わる代わる見

    た。

     後ろの二人は眉をつり上げて笑いを堪えているようでもある。

    「あそこはなー、昼間でも幽霊が出てな~、小さな子供を見るとす~っ
    と手が伸びてきて、おちんちんの先を掴んでビロ~ンと引っ張って墓の中に引きずりこ
    むんやでえ。えへ、えへ、お~こわぁお~こわぁ」

     女の子は身振り手振りでおどろおどろしく言った。

     突如、後ろ女の子が「こんな風にぃ!」

     と、奇妙な声でトシヤンに向かって手を伸ばした。

     トシヤンはひぇ~と言って股間を両手で覆った。

     ヒロムも慌てて紙箱を地面に置くと、両手を股間にあて歯を食いしばった。

     ナオボウも同じ動作で泣きそうになっている

     女の子達は大爆笑だ

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     竹林に差し掛かった所で人の声がした。

     道から身を乗り出してみると、数人の人影が見える

     向こうも気がついてこちらを見上げていた。六年の女子だ。

     三人ともクワを持っている。

    「あんたらこんなとこで何してんのん?」

     と女子の一人。

    「ちょっとやらないかんことがあって」

     トシヤンが答えた。

     女子達はふーんと言って近づくと、ヒロムが大事そうに持っている紙箱をじっと見た。

    「おねえちゃんら何してんの?」

     ナオボウが、女の子達の手にしたクワを見ながら訊いた。

    「おじいちゃんにタケノコ掘り教えてもらってるんや」

     と女の子のは竹藪の向こうを指さしたが誰の姿もなかった。

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    「あいつらいつかこてんぱんにやっつけてやるわ」

     回復したトシヤンが拳を振りながら立ち上がった。さっきの弱さが嘘のようだ。

     トシヤンはまたもとの頼もしい顔のトシヤンに戻っていた。

     でも、なぜ親子ザルは僕たちを助けてくれたのだろう。

     ひょっとしたらお墓にお供えした後、ぼくらと一緒にぼた餅をいただくつもりなのかもしれない。

     いずれにせよ、親子ザルが現れなかったら今頃ぼた餅は全て二人組のお腹の中に入っているはずだ。

     そう思って来た道を振り返ってみるとやはり親子ザルがついてきていた。

    「あのサル、まあ味方してくれたからオレらの仲間にしてやってもいいけどな」

     気付いたトシヤンが苦笑いをした。

     確かに親子ザルは、トシヤンだけではかなわない相手が出たときに心強い味方になる。

    「あいつらに二個食われたけどまだ四つ残っているな」

     トシヤンが残念そうに言った。

     ヒロムは少し軽くなった箱を抱え恨めしそうに見た。

     三人は気を取り直して道を進んだ。
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     見ると、一人の肩には親ザルが、もう一人の肩には小ザルが飛び乗っている。

     二人は、歯をむき出したサルに顔を引っ掻かれていた。

     さっきの親子ザルだ。

     ぎゃーっ! 悲鳴を上げながら二人組は逃げてしまった。

    「今のうちや」

     トシヤンが言うと、ヒロムはぼた餅の箱を抱えて駆けだした。

     三人はもと来た道の方へ全速力で走り続けた

     おいこっちや、とトシヤンがさっき反対に進んだ二またの所で腕を振る。ヒロムとナオボウはその方向に必至で走った。

     どのくらい走っただろう。
     いつの間にか森はすっかり深くなっていた。

    「も、もう大丈夫や」

     トシヤンが息を切らせて地面にへたり込んだ。

     ヒロムとナオボウも肩で息をしながら地べたに腰を下ろした。三人とも暫く口がきけなかった。

     深い森の中で鳥のさえずりだけがチュンチュンと聞こえている。

     見上げると大きな葉っぱの裏側が一面に見えた。

     所々揺れているところに茶色の鳥がいる。

     鳥が動くたびに、葉っぱの隙間から日光が差し込んできた

     ヒロムは眼を細めると、柔らかな草の上に大の字に寝そべった。

     さっきの嫌な出来事が、青々しい草の匂いに消されていくような感じがした
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    「その箱なんだよ」

     二人組はヒロムが大事そうに持つ紙箱に目を付けた。

    「なんでも~ないです~」

     トシヤンがか細く言う。

     二人組はお構いなしにヒロムに近寄って紙箱を取ろうとした。

     こいつらには絶対に渡せないっ。
     おじいさんに食べさせる大事なぼた餅をこんな二人に食べられてたまるか。
     とヒロムは紙箱に覆い被さった。

     相手は力の強い四年生。ヒロムは羽交い締めにされると、あっさりと紙箱を取り上げられた。

    「あかん、その箱あかん!」

     ヒロムは両腕を振り回して二人組に突進した。

     四年の1人が笑いながら紙箱をヒロムの手の届かない頭上に掲げる。
     もう1人の四年の長い足がヒロムの横腹にサーッと伸びた。
     小さなヒロムは簡単に側溝のところまで蹴り飛ばされた。

     ヒロムは泣き顔でトシヤンに助けを求めたが、トシヤンは黙って突っ立ったままだ。
     ナオボウも顔をこわばらせている。
     ヒロムは、住宅街のみんなに聞こえるように大声で泣いた。が、誰も助けに現れない。

     二人組はお構いなしに紙箱を開けた。

    「おっ、ぼた餅や。うまそうやなあ」

     そう言って二人組は笑顔でお互いの顔を見合った。

    「よっしゃいただくか」

     言うが早いか、二人組はぼた餅をつまみ上げ、あんぐりっとかぶりついた。

     ヒロムの泣きが悲鳴に変わる。

    「そ、それ~おじいさんのぼた餅やから食べたらいかん~」

     トシヤンの震えた声が届いた。

     二人組はぼた餅を頬張りながら、なんやとこいつぅ、と言ってトシヤンに詰め寄った。

     ヒロムの涙眼に足下の小石が映る。
     ヒロムは泣きながら小石を拾うと、素早く紙箱に駆け寄った。
     ぼた餅に小石をあてがうと、親指で突いて小石をぼた餅の中にめり込ませた。

     二人組は、簡単にトシヤンを突き飛ばすとまたぼた餅の方に戻って来た。
     ヒロムは急いでトシヤンの方に向かった。

     その時、目の前を猛然と黒い影が駆け抜けた。
     同時に四年の二人組のけたたましい悲鳴が上がった
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     サルは素早くにんじんを拾い上げると、道の脇に移動し首を傾げてニンジンをかいだ。
     舌を出して二、三度舐めると、歯をむき出してニンジンにかじりついた。
     ぺっぺっ。直ぐに顔をしかめ吐き出す。口に合わないようだ。

     三人は爆笑した
     トシヤンが石を投げつけてサルの親子を追い払った。
     親ザルはニンジンを捨てて森の中へと逃げていった。

     再び進み始めた三人だが、何やら後ろから物音がする。見るとさっきの親ザルが小ザルを胸にぶら下げ、後をついてきていた。
     いいやほっとこう、とトシヤンはサルにかまわず足を早めた。

     暫く進むと道が二手に分かれていた。ナオボウが右と言った。進んでいくと森が切れていきなり住宅街に出た。

    「お前まちがえたんとちがうんか」

     トシヤンが立ち止まる。ナオボウが便箋の地図に目を落とした。ヒロムも地図を覗き込む。

    「間違ってる、反対やんか」

     トシヤンがナオボウの頭に軽くげんこつを落とした。
     ナオボウは今にも泣き出しそうな顔だ。

     引き返そうとすると呼び止める声がした。振り返るとランドセルを背負った大柄の二人組がいた。

     ヒロムには見覚えのある顔だった。いつか、校庭の裏庭で下級生を虐めていた二人組に違いなかった。

     トシヤンが小声で「四年のワルや」と言って眉を潜めた。
     二人組はにやにやしながら近づいてきた。

    「お前らこんなところで何してるんや」

     トシヤンも大きいが、四年生はまだ更に大きかった。ヒロムとナオボウは怖くて黙ってしまった。
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