「日焼けしたら大変やろう思うて、センター街の帽子屋で買うたんや。店のお姉さんがこれがこの服に一番似合う言うて見立ててくれたんやで」
と順子さんは僕と石川先生を見上げた。
「ピアノマン、びっくりすんで」
と石川先生が肩を揺する。
「今朝から、頭かてセットしてきたんや。準備ばんたんやで。ピアノマンが高倉健みたいな人やったらどないしょうか」
順子さんは人目もはばからず大きな声を上げた。
石川先生が口元を緩めて歩き始める。
僕と順子さんが後をつけた。
異人館までは二十分ほどで到着する。
土曜日なのでものすごい人出だ。
半分ほど来たところで、バスツアーの団体に紛れた。
みんな異人館を目指している。
上り坂が徐々にきつくなってきた。
「ガバチャさん、うろこの館って知ってんの」
と順子さんが息を刻む。
「以前何度か行ったことがあります」
順子さんは首を縦に小さく振っただけで、ハァハァと息を荒げて歩き続けた。
異人館通りに出ると、案内所のところに人だかりがある。
石川先生が足を止めた。